「酸性だから青い」は半分だけ正解!? 8月の草津温泉に咲く紫陽花の秘密

盛夏の陽射しに木々の緑が深まる頃、草津温泉の町角では、
青や紫の紫陽花が涼やかな彩りを添えております。

「えーっ、8月なのに紫陽花?」と驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、標高約1,200mに位置する草津温泉では、毎年この時期に紫陽花が見頃を迎えます。
今年は例年より少し早く、7月頃から咲き始め、ただいま美しい盛りとなっております。


青空と夏の陽射しの中、温泉街の道を涼やかに彩る紫陽花です。

💠 なぜ草津温泉では8月に咲くのでしょう?

その大きな理由は、草津温泉の「標高」と「涼しさ」にあります。

気温は、高度が100m上がるごとに約0.6℃低くなるのが一つの目安とされています。
仮に標高差が1,000mあれば、約6℃の差に相当します。
もちろん、実際の気温は天候や地形によって変わりますが、
標高約1,200mの草津温泉では、平地よりも春から初夏の気温が低めに推移します。

アジサイの開花時期は、春の気温の影響を受けることが研究でも確かめられています。
暖かい地域では早く、涼しい地域ではゆっくりと開花へ向かうのです。

「梅雨の花」が「真夏の花」になる理由
標高が高い
→ 春から初夏の気温が低め
→ 新芽や花房の成長がゆっくり
→ 平地より遅れて見頃を迎える

平地の花ごよみから見ると遅いように感じますが、紫陽花にとっては、
草津高原の気候に合わせて咲いているだけなのですね。

草津温泉では、桜も新緑も紫陽花も、平地より少し遅れてやってきます。
まるで季節が高原の坂道を、一歩ずつゆっくり上ってくるかのようです。


温泉街の建物の間で、青や紫の花房が幾重にも咲き誇っております。

💠 青い紫陽花をつくるのは「酸」ではありません

今回撮影した紫陽花には、水色や青紫、淡い藤色など、涼しげな色合いが多く見られます。

紫陽花は「酸性の土では青く、アルカリ性の土では赤くなる」とよくいわれますが、
実はもう一段深い仕組みがあります。

青色を生み出す重要な存在は、土の中にあるアルミニウムです。

紫陽花が青くなるまでの小さなリレー
土が酸性寄りになる
→ 土中のアルミニウムが水に溶けやすくなる
→ 根からアルミニウムイオンが吸収される
→ がく片にあるアントシアニン系の色素と結びつく
→ 青く発色する

つまり、酸性そのものが花を青く染めているのではありません。
酸性の土で溶け出しやすくなったアルミニウムが、色素と出会うことで青色が生まれるのです。

反対に、中性からアルカリ性寄りの土ではアルミニウムが溶けにくくなるため、
ピンク色や赤色に傾く傾向があります。

草津温泉のお湯は強い酸性で知られていますが、
温泉の酸性度が街中の紫陽花を直接青くしているわけではありません。
花色を左右するのは、その株が根を張っている土の状態です。

今回の場所で青から紫の花が多く見られるのは、アルミニウムを取り込みやすい土壌条件と、
青系に咲きやすい品種の性質が重なっているものと考えられます。

ただし、品種や色素の量、咲き進み具合などによっても色は変わります。そのため、
紫陽花は土壌の性質を正確に測る「リトマス試験紙」というわけではありません。


近くで眺めると、淡い藤色から深い青紫まで、一輪ごとに繊細なグラデーションが感じられます。

💠 花びらに見える部分は、実は「がく」

ここでもう一つ、紫陽花にまつわる「へーっ!」と思えるお話をご紹介いたします。

私たちが紫陽花の花びらだと思って眺めている大きく色づいた部分は、正確には装飾花のがく片です。

ガクアジサイ型の花房では、周囲を囲む大きな装飾花の内側に、
小さな粒のような花が集まっています。この中央部分にある小さなものが、本来の花です。

気象庁が発表する「アジサイの開花日」も、大きながく片が色づいた日ではなく、
中央にある小さな真の花が2~3輪咲いた日を基準にしています。

私たちが「きれいに咲いた」と感じる瞬間と、植物観測上の「開花」は、少し違うのですね。


周囲の大きな装飾花と、中央に集まる小さな真の花。ぜひ近くで見比べてみてください。

💠 湯畑への道すがら、夏の紫陽花を探してみませんか

今回ご紹介した紫陽花は、湯畑へ向かう温泉街の道すがらで撮影したものです。

夏空の下、歴史を感じる建物や細い坂道に寄り添うように、青や紫の花房が咲いております。
強い陽射しの中で眺めるその色は、目にも涼しく、ひととき暑さを忘れさせてくれるようです。

旅では、目的地だけでなく、そこへ向かう途中で出会う小さな景色も大切な思い出になります。

湯畑へお出かけの際は、ぜひ道沿いの紫陽花にも目を向けてみてください。
花の色を眺めながら、「この土ではアルミニウムが活躍しているのかな」と想像してみるのも、
いつもとは少し違った散策の楽しみ方です。

撮影の際は周囲の交通にお気をつけいただき、
草津温泉ならではの遅い花ごよみをゆっくりとお楽しみくださいませ。

涼やかな夏の花と名湯が、皆様をお迎えいたします。皆様のお越しを、心よりお待ち申し上げております。

参考資料:気象庁「あじさいの開花日」
「日本におけるアジサイの開花日に関する気候学的研究」
名古屋大学研究発表



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